EP07「Past for Past」-12/12 PM07:42 鈴山家 自室-結衣「はぁ・・・・。」 また今日も、皆からいじめられた。学校に行くと毎日だ。私は病気で1年留年している。 皆とは365日分見て来たものが違う。たったそれだけなのに、皆との温度差は激しかった。 私は何もしていないのに、私はこんなにも頑張って生きているのに、誰もそれを認めてくれない。 頑張るだけ無駄、すでに実力社会のような学校に私の居場所は無い。 こんな生活はもう嫌だ、だれも助けてくれないこんな世界が嫌だ。もう楽になりたい。これだけ頑張ってきたんだから。 結衣「明日になったら・・・・。」 私は決めた。もうこの世から去ろうと。もう"普通"なんて手に入らないんだから。 EP07「Past for Past」 -12/13 PM04:53 陽華高校2-A- 夜城が言っていたとおり、あれから二週間、リネクサスの襲撃は無かった。俺はあの時の電話の出来事を吉良司令に言った。 そして今後の対策も取り、俺は毎日学校帰りにはドライヴァーとしての訓練も積んで、前よりは十分に強くなれたと思う。 この二週間は敵にとっても俺にとっても有意義だったのかもしれない。 真「暁~、今日もトレーニング?」 暁「あぁ、悪いな、最近付き合い悪くて。」 一緒に帰ろうと誘いに来たらしい真に俺は両手を合わせた。 真「気~にすんなって!あ~、俺もバリケード隊員になりてぇな~。」 暁「馬鹿いうなよ、バリケードをお前が動かせるわけ無いだろ。 それに俺たちは政府と直結して仲良くやってるわけじゃないんだから。」 バリケードというのは日本特別自衛隊が所有する対リネクサス用の機人である。世界情勢が変わった今、バリケードは公のものとなった。 そしてバリケード隊員募集という記事まで新聞に載せているほどだ。 真「別にいいじゃねぇか、それでも~。」 暁「ったく、お前が危ない目にあってもこっちは簡単に助けに行けないんだぞ?」 政府は悪魔でARSに頼るということにはしたくない意地を持っているらしい。故に自軍を助ける行為は必要ないというのだ。 人命がかかっているのに大人の見栄張った都合というのは馬鹿馬鹿しい。 真「へっ、そのうち俺はエースパイロットになって自分専用機を貰ってゴールドに塗装するんだ!」 暁「おーい、話聞いてるか?」 真「おう、聞いてるぜ!そしていつかアッファーレと並んでリネクサスをぶっ潰す!」 真が右をグーに左をパーにして顔の前で叩いた。 暁「聞いてないな、お前。あとアッファーレって何だよ?」 真「お前の機体だよ、違ったっけ?」 暁「アルファードだっての、なんだよその貧弱な名前。」 あまりにも弱弱しい名前に俺はくすっと笑ってしまった。 真「あ~、確かそんな名前だったな~。 ま、そういうことで、数年後はよろしくな!」 暁「お前が出世する前に俺がリネクサスを片っ端からぶっ潰してやるぜ。」 真「それはそれで助かるなぁ、うん。」 暁「どっちだよコラ!」 俺は真の後に回って右手を真の首に回して締め上げる。 真「ギブギブ!悪かった悪かったぁっ!」 その時、携帯の着信音が鳴った。どうやら真の方らしい。 真「うわ、御袋からだよ。」 暁「出ればいいじゃねぇか。」 真「どうせ買物頼まれるパターンだぜ、この時間。」 苦笑しながら真が言う。 暁「そういや、俺も向こうに連絡しとかねぇと・・・・・ん?」 ポケットに手を突っ込むが、あるべき携帯の感触が無い。それに重みも全然感じない。 真「どうした?」 暁「・・・・あ。」 俺は今日の出来事を一つずつ思い出しながら最後に携帯を扱った時を思い出した。 暁「今日屋上で飯食ったときに携帯落としてきたかも。」 真「はっはっはっ、まじかよ~!」 暁「笑い事じゃねぇって。 ちょっと俺取ってくるわ。」 腹を抱えて大笑いする真をよそに、俺は教室を出て急いで屋上へ向った。 真「先帰ってるぜ~?」 暁「おう、またな!」 自慢では無いが、俺の携帯は結構人気のある型で値もお高い。この前初めて貰ったARSの給料で買ったばかりなのだ。 盗まれるのだけは勘弁だった。 ラストスパート、屋上への階段を一気に駆け上がり、ドアを思いっきり開けた。夕日が差し込む中、俺の携帯がポツンと隅に置かれていた。 小走りで駆け寄りひょいと持ち上げる。 暁「ふぅ~、セーフ。」 パッパと埃を落としてポケットに入れる。一件落着し一息ついていると人の存在を感知した。 振り返って見ると、そこには茶色の髪をした女子生徒が立っていた。しかも靴を脱いでフェンスの外に居る。 俺はその美貌に見とれていたが、話はそんなところではない。今の状況から考えられるのはただ一つ。 暁「おい、待てって!!」 結衣「・・・・っ。」 その女子生徒は一瞬こっちを見たが、すぐに飛び降りようと膝を曲げた。 暁「待てぇっ!!」 俺は思いっきり地面を蹴り飛ばした。訓練が生かされてか、すぐにその女子生徒の隣まで辿り着いた。 手を思いきり伸ばし、女子生徒を掴もうとする。制服の右腕を引っ張り、俺は引き上げようとするが、すでに女子生徒は飛び降りている。 俺も重力に逆らえず、地面に投げ出された。 風が背中をごうごうと押している。初めて落ちる十数メートルの高さに俺は驚いた。さすがにこの高さだとこの子は死んでしまう。 そうなれば、何回でも条件を満たさない限り死なない俺が下敷きになる方法しか思いつかなかった。 暁「間に合えっ・・・!!」 俺は空中で思いっきり女子生徒を引っ張って抱き寄せた、そのまま俺が下敷きになり、地面に叩きつけられた。激痛が全身を駆け巡る。 人が死ぬ痛みが走る中で意識が残るのは、とても不愉快だった。 結衣「・・・わ、私・・・・いや・・・・いやぁぁぁぁ・・・・。」 馬乗りになっている女子生徒は顔をくしゃくしゃにして泣き出したようだ。彼女の頭の中では俺は死んでいるのだろう。 いや、これを目撃した誰もが俺を死んでいると思ったはず。 今更だが、このまま体が回復するまでに事態が深刻な問題になった場合どうするのだろうか。火葬直前に起き上がるなんて冗談はしたくない。 有坂さんが言っていたが、ドライヴァーは条件外で死んだ場合一日二日で元に戻ると言っていた。 だがこの状況、一日どころか数時間すれば俺は病院送りで手術を受けることになるだろう。 そう思っていると、不思議と俺は意識も消えた。 -PM07:45 陽華高校 保健室- 暁「ぐっ・・・・・。」 目を覚ますと俺は保健室に居るらしい。あの後俺はどうなったのだろう。 不思議と体は全然痛くない、きっとドライヴァーの自己修復能力が完全に働いて元どおりになっているのだろう。 紗枝「あら、起きたの?」 俺の動きに気付いたのか、ベッドのカーテンを開けて保健室の先生である"小早川 紗枝(こばやかわ さえ)"が覗いてきた。 暁「はい、俺どうなったんですか・・・?」 紗枝「こっちが聞きたいわよ。鈴山さんが言うには屋上から落ちて下敷きになったのに気絶だけなんて。 あなた宇宙人か何か?」 冗談交じりに小早川は俺の顔を見た。さっきの話に出てきた鈴山さんというのがあの時の女子生徒のようだ。 暁「いやぁ・・・その俺も分からなくて。」 紗枝「ま、無事生きてることだし、運がよかったって事にしときましょうか。」 そういって小早川はテーブルの上の用紙に何か書き始めた。 暁「そういえば、あの女子は・・・?」 紗枝「"鈴山 結衣(すずやま ゆい)"さんね、隣のカウンセリング室に居るわ。 一人にさせてほしいって。」 保健室の壁を指差した。 暁「俺、ちょっと会ってきます。」 紗枝「あの子、一年間病気で学校を留年してるの。それが原因で周囲から離されてイジメを受けているのよ。 だから自殺を図ったのよ。でもその所為で鳳覇君が傷ついてしまった。」 暁「そのショックで一人で考え込んでいるんですか?」 かなりプライベートに踏み込んだ深い話を言う小早川に俺は驚いた。 紗枝「えぇ、たぶんね。」 暁「それならなお更会わないと、俺がどうにかしてみせます!」 何となくだが、あの子が飛び降りる前の顔。どこかまだこの世の中でやり残した事があるような顔だった。 きっと鈴山はまだこの世界で生きていたいはずだ、ならその希望の光を射してはやれないだろうか。 もう俺はドライヴァーとして人間を逸脱した存在でいる。それはもう後戻りできない事実だ。鈴山も死んだら後戻りできない。 だが今はまだ何度でも後戻りできる。可能性を無駄にしてほしくはない。 紗枝「はっは~ん、鳳覇君もしかして鈴山さんに惚れちゃった?」 暁「な、なんでそうなるんですか!?」 俺は自分でも顔が赤くなるのが分かった。 紗枝「あの子性格もいいし、スタイル抜群だし、一目惚れする気持ちも分かるわ。」 暁「そんなのじゃありません!それじゃ失礼します。」 俺は保健室を出て、すぐ隣のカウンセリング室に行った。ドアをノックするが返事はもちろん無い。 すすり泣く声だけがかすかに聞こえてきた。 暁「・・・入るぜ?」 ゆっくりとドアを開けて、俺はカウンセリング室に入った。 結衣「・・・・・。」 椅子の上で体操座りをして、頭を膝と胸の間に入れ込んでいる鈴山の姿が目に入った。電気もつけずに暗い教室にすすり泣く声だけというのは怖かった。 とりあえず俺は電気を1つだけつけた。 鈴山は一瞬俺を見て驚いた。 結衣「ほ、鳳覇君・・・!?」 暁「よっ、さっきぶり。」 目を丸くして俺を見る鈴山。名前を知っているようだが、きっと小早川に教えてもらったのだろう。 結衣「ごめんなさい!私・・・私君を酷い目に遭わせて・・・! ほんとに・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・。」 鈴山は大泣きしながら俺に頭を下げた。 暁「全然気にしてないから、ほら顔上げて。」 結衣「でも・・・でも・・・。」 それでも結衣は泣き止む様子はない。俺もこの立場ならどんなにしても泣き続けるだろう。 こういう時、どうすればいいだろう。俺なら罰を与えてもらえば少しは楽になる。 暁「わかった、じゃあ2つ条件守ったら許す、これでいい?」 結衣「・・・・うん、なんでもする。」 効果抜群だ、やはり罪を感じた場合罰があると少し楽になる。皮肉なことではあるが。 暁「一つ目はもう泣かないこと、二つ目はもう二度と自殺なんてしようとしないこと。 悩みがあるなら一人で抱え込まずに誰かに話してみようぜ、俺も相手になるから。」 結衣「・・・・・なんで・・・。」 鈴山は小声で呟いた。 結衣「なんで、私なんかを・・・?」 暁「何ていうかさ、飛び降りる直前の鈴山さんの表情は後悔があった気がしてさ。 まだ何かやり残したこと、あるんじゃないのか?」 俺の言葉に鈴山は黙り込んだ。きっと核心を突いたのだろう。手ごたえはあった。 少したって、ようやく鈴山は口を開いた。 結衣「私は、ただ皆と一緒に笑って普通に生活したい・・・・。 本当はまだ死にたくなんかない・・・。」 暁「なら、皆と一緒に笑おうぜ。」 結衣「でも、私には一緒に笑ってくれる友達がいないから。」 暁「そんなに消極的になんなよ。」 俺は再び俯きだした鈴山の肩に手を置いた。 暁「俺は笑う、だから後は鈴山さんが笑えば、今一緒に笑ってるだろ?」 そう言って俺は微笑んだ。 結衣「鳳覇君・・・・・鳳覇君!!」 鈴山は泣きながら抱きついてきた。物心ついて初めて女に抱きつかれた。泪で俺の制服を濡らす鈴山をただ見つめていた。 -同刻 場所不明- エルゼ「さて、今度こそ奪還できるといいな。」 エルゼはパソコンの画面に映るサンクチュアリを見ながら呟いた。 ナーザ「まだエルゼ様はあの3人に出撃させる気ですか?」 エルゼ「あぁ、まだこちらの切り札を見せるわけにはいかないしな。 それに鳳覇 暁は完全に覚醒していないのなら、機人だけで十分だろう。」 パソコンのキーを押すと、画面はサンクチュアリから3機の専用エインヘイトに変わった。 ナーザ「レドナはいつ裏切るか分かりませんよ。」 エルゼ「裏切ったらその時はその時だ。 だが、私の予想だとレドナは私が必要とする時まで付いてきてくれるさ。」 その時、エルゼのパソコンが通信画面になった。 レドナ「夜城 レドナ、麗華 修、ヒルデ・リゼイム、全員準備完了した。」 エルゼ「分かった、出撃は2030時、それまで待機だ。」 時計をチラリとみて言った。 レドナ「了解。」 通信が切れた。 ナーザ「・・・やはり、今回の作戦はグラドも出撃させたほうがいいかと思いますが。 福岡は鳳覇のテリトリー、下手に動けばまたあの力を使いかねません。」 エルゼ「今までは何のための準備期間だったのか? 下手にデータ収集しただけが前回の出撃ではない。」 パソコンのキーを数個点々と押した。画面に映るロボットの姿。 ナーザ「まさか、完成したのですか?」 エルゼ「あぁ、もう一度彼にはあの力を使ってもらわなければならない。 そのデータさえ揃えば・・・ふっ。」 エルゼの口元がニヤけた。 -同刻 リネクサス 巡洋潜水艦ハンガー- 修「今度こそ、必ず機神を仕留めましょう。」 ヒルデ「当たり前よ、こっちだって何ども撤退して、ザコって思われたらたまらないわ。 レドナもあのドライヴァーを殺したいんでしょ?」 エインヘイトの通信モニター越しにヒルデが聞いてきた。 レドナ「あぁ、命令だからな。」 俺は鳳覇 暁を殺しに行くのではない、悪魔で俺の敵は"サンクチュアリのドライヴァー"だ。 修「辛くはないですか?同級生を打つのは。」 レドナ「俺の敵は同級生ではない、サンクチュアリのドライヴァーだ。」 ヒルデ「な~んか、つまんないわね。」 呆れたようにヒルデが言う。 レドナ「俺はヒルデのために戦っているんじゃない。 ヒルデがどう思おうが俺は俺の理念を通す。」 修「ははっ、嫌われましたね、ヒルデ。」 ヒルデ「関係ないわよ!」 怒った顔でヒルデは通信を切った。 修「レドナ、もし辛くなったらいつでも留めは請け負いますよ。」 レドナ「俺の目的は俺が果たす、加勢はいい。」 あれに乗っているのが鳳覇であろうが、俺は何とも思わない。それ以上のものを俺は背負っているのだから。 修「武士道を理解していらっしゃることで。」 レドナ「俺は生まれも育ちも日本だ。」 ハーフであることに代わりは無いが、俺はそこまでフランス系のことは知らない。 武士道というのは深く踏み込んだことが無いが、雰囲気で何となくわかる。 修「そうでしたね、申し訳ない。」 レドナ「そろそろ通信切っていいか、少し静かになりたい。」 修「分かりました、それでは後ほど。」 修からの通信が切れた。ようやく訪れた一人の静けさ。いつの間にかこの席も居心地のいい場所の一つに入っていた。 俺は残酷だ、きっとこの席に座って落ち着けるのは悪魔だけだろう。それに俺はなっているのだ。 -PM08:15 陽華高校 保健室- 結衣「ごめんね、制服濡らしちゃって・・・。」 ようやく泣き止んだ結衣は俺から離れた。どれだけ苦しかったのか、俺の制服は胸元だけ大雨に打たれていた。 暁「気にすんなって。 あ、もうこんな時間だけど、そっちは家大丈夫なのか?」 壁にかかっている電波時計の針を見て俺は言った。このまま鈴山と居られるのは俺にとっては嬉しかったが、相手のことは考慮しなければならない。 完全下校の時間もとっくに過ぎて、外は何も見えないほど真っ暗になっている。鈴山の両親は心配しているだろう。 家に帰っても誰も居ない俺にとっては、生きている上であまり考えないことの一つだった。 結衣「うん、今日はお父さんもお母さんも仕事で帰ってこないから。 それより、鳳覇君の方こそ大丈夫なの?」 暁「あぁ、ウチは一人暮らしだから。 両親とも仕事で忙しくて一年に数回しか会わないし。」 そうは言ってみたが、御袋とはこれから長い付き合いになるが。それでも一人暮らしには変わりない。 御袋もARSの本部の方に住み込んでいるらしい。 結衣「そう・・・なんだ、一人で寂しくないの?」 暁「もう慣れてるし、物心ついたときからそんなもんなんだって思ってたから。」 皆最初は寂しくないのだとか、辛くないのだとかを聞いてくる。だが俺にとっては"普通"のことだった。 結衣「凄いなぁ、鳳覇君。凄く強いんだね。」 暁「そうか?あんまり自分ではそう思わないんだけど。」 結衣「ううん、全然凄いよ・・・・羨ましい。」 羨ましい、普通がどうだとかこだわっていた昔の俺にとっては異質な言葉だった。だが今は違う。 真が俺に対して言った羨ましい、その意味が分かった気がする。 暁「羨ましいなら、俺は鈴山さんの目標になる。 そしてその目標で居続けるのが俺の目標だ。」 結衣「面白いこと言うんだね。」 結衣がクスクスと笑って言った。 暁「他にも俺を目標にしてるやつが居てさ、だから俺はそいつの目標であり続けようって思ったんだ。 結構真面目な話だぜ?」 結衣「ふふっ、それじゃ、ちゃんと私の目標で居てね。」 そういって、鈴山は小指を上げた。 暁「おう、約束する。」 俺はその小指に自分の小指を絡ませた。真とした時とは違い、自分の頬が赤くなっていくのが感じられた。 暁「もう暗いな・・・家まで送っていこうか?」 結衣「ううん、いいよ一人で。」 暁「遠慮すんなって。」 結衣「・・・それじゃお言葉に甘えよっかな。」 鈴山は照れ笑いをした。 -PM08:19 陽華高校付近- すっかり外は肌寒くなっていて、制服だけだと凍えそうだった。 そんな中を徒歩で学校に来ている鈴山を自転車の後部に乗せて、俺は鈴山の帰宅道を突っ走っていた。 その時、俺のケータイが着信音を鳴らした。 暁「はい、もしもし?」 左手で自転車の操作をし、右手で電話に出た。 剛太郎「鳳覇君、すぐに福岡沿岸部まで来てくれないか? ARSの輸送機、ガルーダが到着しているはずだ。」 暁「沿岸部に?それってまさか・・・。」 突然の吉良からの電話、機神用の輸送機が到着していると言う事は、一つしか考えられない。 そう。 剛太郎「あぁ、リネクサスの接近が確認された。」 暁「マジかよ!?」 剛太郎「数分の間は政府のバリケードが防御に当たるはずだ。 要請が出たらすぐに我々が動く、鳳覇君にも是非アルファードで待機してもらいたい。」 暁「分かった、すぐに向う!」 俺はそう言って電話を切った。だが後には鈴山が乗っている。彼女まで巻き込む訳にはいかない。 その時だった。 ――リネクサスが接近しています、沿岸部周辺の方はすぐに非難をしてください―― 結衣「鳳覇君、これって・・・。」 暁「リネクサス襲撃の告知!?まさか政府が・・・!!」 もうリネクサスの存在が公になっているので、住民にも隠蔽なく避難勧告を出せているというわけだ。 結衣「私達も早く逃げよう!」 暁「くっ・・・・・。」 結衣が後に乗っている以上、俺は結衣を助ける義務がある。だがここで俺がARSという組織に居るということは知られてはならない。 ARSはあくまで裏の裏政府という存在なのだから。 どうすればいいのか。俺が逃げては逆に向こうが危ない。 俺は決断した。 暁「鈴山さん、自転車貸すから先に逃げて。」 結衣「鳳覇君も一緒に非難しないと危ないよ!」 暁「俺は大丈夫だから!」 そう言い放って、俺は走って沿岸の方へと向った。鈴山が後から呼び止める声が聞こえるが、俺は無視して走り続けた。 あれから数分走り続けた、さすがに足だけでは沿岸部に行くまで時間がかかる。 そう思ったとき、俺の目の前に赤い大型のバイクが停止した。 雪乃「鳳覇君!」 暁「あ、有坂さん!?」 バイクに跨っている人がヘルメットを外すと、そこに居たのは副司令だった。 雪乃「さ、後ろ乗って。すぐに沿岸部に向うわよ!」 暁「はいっ!」 ヘルメットのもう一個を俺は受け取り、そのまま有坂の後に座った。 -同刻 陽華高校周辺- 結衣「鳳覇君・・・。」 私は鳳覇君から残された自転車の取っ手を握り締めてただ突っ立っていた。 さっき電話で沿岸部がどうとか言っていた。鳳覇君はもしかして戦いに行ったのかもしれない。 私を巻き込まないために。 私が目標にしている強い人で居続けるために。 結衣「追いかけなくちゃ、私だって・・・。」 鳳覇君は私を助けてくれた、今度は私が鳳覇君を助けなくちゃいけない。 違う、私は鳳覇君を助けたい。 その一心で私は自転車をこいで沿岸部へと向った。 -PM08:26 福岡県 沿岸部- 俺が沿岸部に到着した頃にはすでに多くの人が忙しく動いていた。それにバリケード6機がすでに攻撃の構えをしている。 その片隅、少し離れた場所に巨大な輸送機があった。ARSの大型輸送機"ガルーダ"だ。 その下まで行くと、有坂はバイクを降りた。 雪乃「ハンガーは後の方よ、自機に乗って待機しておいて。」 暁「了解!」 指示を聞くと、俺もガルーダの中に入り、ハンガーを目指した。 静流「遅刻は厳禁だ、鳳覇。」 ハンガーに入るなり、神崎の冷たく尖った声が俺を刺した。 声にエコーがかかっていることから、すでにスティルネスに搭乗しているのだろう。 暁「すいません!」 走りながら謝り、俺も白い装甲の機神の元へと急いだ。アルファードの右横にある階段を登り、コクピットに入る。 メインモニターが点灯し、それに続いて様々なモニターも明滅を開始する。 雪乃「全員揃ったわね、それじゃ今回の作戦を説明するわ。 今から数分後にリネクサスがこちらを射程範囲に捉えます。 政府軍のバリケードが応戦しますが、危なくなって政府からの要望が出たら出番よ。」 佑作「また無理しちゃって・・・。」 寺本がやれやれといったように呟く。政府というのは何なのか、国民を守るのが義務ではないのか。 それなのにその国民を最前線に立たせ、自分の面のために俺たちの手を借りようとしない。 暁「やっぱ、納得いきません!俺を出撃させてください!」 静流「またお前は自分勝手の行動で他者を苦しめる気か。」 神埼の鋭い声が俺の胸を貫いた。たった一言でこうも黙らせられる自分が悔しかった。 雪乃「・・・・!!皆、緊急事態よ!すぐに出撃して!」 途端、耳を劈くような爆音、それに続いて大きな地震が起きた。 暁「ぐっ!!」 佑作「な、なんだよ!?」 静流「質問は後だ、出るぞ。」 スティルネスはガルーダ後部デッキから空へと飛び立った。スティルネスの姿は爆煙ですぐに隠れた。 雪乃「リネクサスの奇襲よ!ガルーダの裏に回りこまれたわ!」 佑作「リネクサスめっ・・・行くよ鳳覇!」 暁「お、おう!」 ゲッシュ・フュアーの後に続き、俺もすぐに後部デッキから外に出た。その瞬間、アルファードの横をビーム粒子が通り過ぎた。 暁「有坂さん!?」 急いで俺は振り返ったが、ビーム粒子はガルーダの装甲を引き剥がし、ハンガー部分を露出させた。 緊急用として搭載していた疑似機神のルージュがその衝撃でハンガーから飛び出して、住宅街に倒れこんでいる。 雪乃「こっちは・・・何とか大丈夫よ、それより敵の応戦を・・・。」 通信にノイズが走っている。 静流「気を抜くな、例のエインヘイトが向った。」 スティルネスはすでに水色のエインヘイトと鍔迫り合いを繰り広げていた。 佑作「鳳覇、後!!」 寺本の声に俺は再び180度回転し、視界を見渡す。すると黒いエインヘイトがこちらに向って両刃剣を構えて突進してきている。 すぐに俺はアルファードの太刀を引き抜き、それを受け止めた。 暁「くっ・・・・夜城か!!」 レドナ「悪いが、今回は全力でいく。」 黒いエインヘイトは左手を剣から離し、拳を作ってアルファードの胸部を殴りつけた。 激しい衝撃がコクピットを振動させる。そのままエインヘイトは手首についているバルカンを発砲してきた。 負けじとこちらも足でエインヘイトの腹部を蹴り押す、一旦怯んだものの、すぐに大剣をかざして切りかかってくる。 再び2本の太刀をクロスさせてその斬撃を防ぐ。 ヒルデ「レドナ、いくわよ!」 黒いエインヘイトがアルファードからジャンプして離れる。今度はその横から先ほどのビーム粒子がアルファードの左腕を直撃した。 ビームの眩しさで相手が見えなかったが、きっとあの赤い遠距離戦用のエインヘイトであることが想像できた。 暁「ぐぁぁぁぁっ!!!」 佑作「てっめぇぇぇ!」 ゲッシュ・フュアーが赤いエインヘイト目掛けて体当たりをしようとする。 ヒルデ「あらあら、あんたの相手は私じゃないんだけどね。」 佑作「何!?」 突如ゲッシュ・フュアーを囲む青いドーム状の空間。 雪乃「あれは、プリズンフィールド!?」 佑作「くそっ!罠かよ!!」 ゲッシュ・フュアーの拳がフィールドを内側から叩く。だがフィールドはビクともしない。 機神・疑似機神捕獲用の特殊電磁フィールド"プリズンフィールド"は内部から割ることはほぼ不可能だ。 静流「くっ、長期の沈黙はこのためか。」 見ると、同じくスティルネスも青いドームの中に閉じ込められていた。 修「無様ですね、こうも簡単に罠にかかってくれるとは。」 さっきまでスティルネスと交戦していた青いエインヘイトも俺の方に向ってくる。 どうにかして逃げようとするも、黒いエインヘイトの攻撃を受け止めるので精一杯だ。 おまけにさっきの砲撃で左手は木っ端微塵に吹っ飛んでいる。 赤いエインヘイトの砲撃は今はバリケードに向っている。その赤いエインヘイトの動きを一瞬確認した時だった。 修「余所見はいけませんね。」 水色のエインヘイトの太刀がアルファードの肩装甲に突き刺さった。 暁「しまった!!」 左腕を完全に破壊し、右肩にもダメージを与える。そう、サンクチュアリ・ノヴァを封じられたのだ。 発動には両肩からの波と両膝からの波の合成波が必要となる。 ノヴァが放てない状況、それに2対1のアンフェアな状況に俺の勝率は無かった。 レドナ「さぁ、終わりだ!!」 黒いエインヘイトの蹴りがアルファードを直撃し、砂浜に倒れこむ。そしてコクピットに黒い両刃剣を突きつけられた。 暁「・・・・くっ!!」 絶体絶命の状況としかいいようのない現状に、俺は死を覚悟した。生憎ここはアルファードのコクピット内部だ。 殺されては俺は完全に終ってしまう。 せめてもの抗いとして、俺は剣を突きつける黒いエインヘイトを、夜城を睨んでいた。 EP07 END |